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第6話 Adios(さらば)木々の緑よ
 見上げると大きく広がる澄んだ青い空。風に流されるまさしく綿菓子のような白い雲。日中はじりじりと皮膚に刺し込む強い陽射し。その陽射しからアリたちにも日陰を提供してくれる、光合成豊かな葉のついた木々。緑、緑、緑。豊かな自然に囲まれた街。それが、初めてサンホセの街を見た私の第一印象でした。

 一方で、文化的、歴史的、物質的、機能的にも豊かと言える東京から来たので、その全てが無いように思えて、ものすごい「ど田舎」に来てしまったようで、落ち込みはそれなりにありました。人間には太陽、緑、そして豊かな水が必要だとわかっていても、その全てが今、目の前にあるとわかっていても、物質的に豊かな世界から別世界に来ると、なかなか順応できないものですね。来た当時は、ちょっと車で郊外に出ると、高速道路の両側は緑豊かな林でした。ところが、その林が今ではどんどん無くなりつつあります。

 エスカス、サンタアナ方面の高速道路がその一つですが、以前はそこにはショッピング・モール一つとホテルがありました。木に覆われた両サイドにポツンとそのモールがありました。当時、店舗は少なく静かなものでしたが、今では映画館もできて、週末ともなればたくさんの人で賑います。そして、あれよあれよという間にアメリカ資本の倉庫型大量販売の店、近代的な私立病院ができ、そこに至る道路も別に開通しました。買い物が本当に便利になって喜んでいる毎日です。

 ところが、ふと視点を変えて周りを見てみると「あれ?木はどこに行った?」「林はどこ?」。人が集まる近代的な建物を増やし、道路を作るということは、そこに今まで存在していた生物、植物をどかす、あるいは消すということだったのです。そして、それは後で間違いに気付いても元には戻せない、再生できないとても大事なものだったのでは。
すぐ近くにあったときはそれほど感謝の気持ちを持たなかったのに、自然にあったものが無くなって初めてその存在の重要さに気付いた瞬間でした。開拓されて、緑豊かだった場所が、肌をあらわにしたような土色に変わっていき、今まで森林で隠れて見えなかった向こうの方が見渡されるようになったことを、見晴らしが良くなったと喜ぶべきなのか。日本の塀に囲まれた高速道路と違って、見上げれば青い空、緑の中にあったAuto Pista(高速道路)は絶好のドライブコースだったのに。

 木々に囲まれ呼吸をしていると感じられた緑色の頃と違って、今は、髪の毛をバリカンでガーっと刈り上げた後のような、道の土色とアスファルト色のラインからは、生命の息吹を感じられないのです。髪の毛はまた生えてきます。若ければですが。木を抜くのはあっという間にできる作業でも、植林して成長するまでは何10年という月日がかかるし、同じ光景を二度と作ることはできないでしょう。

 子供たちも、彼らの年齢なりに何かを感じてくれているようです。変化していくコスタリカの「緑の世界」は、都会では見られない自然の減少していく過程を示してくれているように思えます。近代化していくために、私たち人間、そして生物が暮らすのに適した本来あるべき木々がなくなってゆくのを見て、自分の体の一部を切り取られるように、体に痛みを感じるのは年のせいでしょうか。

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