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「アイロンがけは文化」
 ズボンの折り目が気になる年頃に寝押しをした記憶をお持ちの人は多いと思う。寝相の悪さで折り目が複線や複々線になることもしばしばであった。こんなときにはアイロンの便利さ有難さには誰もが納得する。アイロンに蒸気装置が付きスチーム・アイロンとなった。このおかげでテカテカに光っているズボンは見当たらなくなった。かくて世界中のクリーニング屋さんは挙ってスチーム・アイロンの信奉者となった。文明は四方へ伝播し、文化に地域性があるとすれば、ここまではアイロンは文明の範疇であった。

 98年の1月にローマ法王がキューバを訪問したことをご記憶と思う。その時の名誉あるホスト役、カストロ首相はどんな服装をしていたのかご記憶にある人は少ないのでは。
 テレビに映し出されたのはネクタイ姿。これまでの軍服軍帽一本槍ではなく背広姿であった。世の中は変わったと思ったのも本当だが、カストロ首相の背広姿に樟脳のにおいを感じた。革命で柳行李につめられた背広が50年近く経って突然虫干しされ法王の歓迎式典に出された感じがした。襟はペチャンコに、袖には寝押ししたようにアイロン筋が付いていたのを思い出す。

 今泊まっているホテルでしわくちゃになった背広にアイロン掛けを頼んだら、カストロ首相なみのペッタンコ襟、筋付き袖だった。これはなんとか説明して掛けなおしてもらった。2〜3日してワイシャツを洗濯に出す際袖先カーラーは広げたままアイロンをかけ、肩先からのアイロン線はカーラーの手前までと念を押したにも拘わらず何時もと同じくカーラーに2本線付きであった。形状記憶とか形状安定とか云う材質のためかカーラーにも複線が出来てしまった。近いうちに複々線になるだろうといささかビビッテいる次第。

 当地に長く住む方にこのことを申し上げたら、ジーンズに折り目をきちんとつけるのだからネ、とのことだった。襟を広げてのアイロンではなくボタンを先に留めそのまま上からアイロンをべたっとかけたようだ。祖父や父、隣の小父さんが着ていた開襟シャツを連想させるし、またもや法王のキューバ訪問のテレビ中継をも思い出させてくれた。

 ホテル外のクリーニング屋にどんなに説明し、いかに説得を試しても結果はホテルと同じであった。ここまで徹底してくると諦めよりもこのアイロンの掛け方はこの地区特有の「文化」であると思えるのである。

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