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「網」
 天網恢かい疎にして漏らさずとは天が作った網の目は粗いが悪いことは網目に架るの意味であると読んだ記憶がある。天網にはかすみ網の意味もあるとも書いてあった。網の目を広げるとか、狭めるとか言う。天の網も広がったり狭まったりするのだろうか。同じことをしでかしてもある時は網に架らなかったがある時は架ってしまったらどうしようと心配性の者にはいささか気になる。

 朝の明けやらぬころからギャーギャーとの鳥声に起こされたのは確かグァテマラのホテルであった。ホテルの周りに大きな木が繁っていてギャーギャー鳥の高層マンション風ねぐらだったのだろう。どんなに疲れていようがどんなに熟睡していようがあの声では目が覚めること請け合いである。だからギャーギャーホテルと呼んでいた。毎朝のことなので宿泊客のなかにはうるさいと苦情を言った方もいらしたかも知れないが聞き漏らした。何年かの間、出張で来ると毎朝ギャーギャーと起こされたところを見ると天網もかけられなかったのだろう。あれから二十数年、あの高層マンションの大木はどうなったのだろうか。ギャーギャーの子孫達は今もギャーギャー騒いでいるのだろうか。一度覗いてみたい。

 「コスタリカ」はRich Coastのスペイン語、「豊かな海岸」の意味だそうだ。開発されること、つまり世俗化されることの好悪は別として、ここコスタリカにはまだ開発されていない海岸もある。そんな海岸にある小さなホテルに泊まったことがある。そこで聞いた話。

 ある日、日本からのお客さんが到着したそうだ。フロントでここは世俗的な物は何にもない、ある物は自然と「豊かな海岸」と聞いて喜んでいた。翌日の朝、そのお客さんがフロントへ来て苦情を言ったそうだ。朝早くからニワトリの声がうるさいと。あれは確かに人をイライラさせる鳴き声である。寄席の物まねとは大違いである。このお客さんにギャーギャーホテルに泊まって頂き何とおっしゃるか伺ってみたいと思うのは悪趣味だろうか。

 同じ自然界の生き物でギャーギャー鳴いても文句が来ないのに、片方ではコケコッコーと鳴いたがために「うるさい」となるのは「天網」ではなく「人網」のせいであろうか。しかもその網目は相当細かったようだ。コケコッコーさんには気の毒だった。

特別寄稿 栗野勇三氏のコスタリカ随想 目次へ
 
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